具体例で説明!人と一緒に朗読する時に気をつけたい3つのポイント

こんにちは。
声と体で小説の世界を
生き生きと表現する舞台朗読研究所
S-R Labo 松井みどりです。

今回は
「人と一緒に朗読する時に
気をつけたい3つのポイント」

についてお話します。

複数人でひとつの作品を仕上げる、
という発表方法を
経験した方はいらっしゃいますか?

いろいろな意見を出し合い、
協力してひとつの作品を作るのは
楽しいですよね。

今回はこのように、

「発表会で分かち読みをするなど、
ひとつの作品を読むパートを分けて
全員で読む

という場面を想定して
お話します。

全員でひとつの作品を一緒に作るということを忘れない

朗読は各自で稽古する時間が長いため、
ひとりで練習してきたことを
みんなで合わせる、
というだけの
稽古になりがちです。

人と一緒に読む時は、
全員でひとつの作品を
一緒に作る
ということを
忘れないようにしましょう。

「私はこう読みたい!」
「私はこう思う!」

だけではなく、
全体を見た時に自分がどう読んだら
作品全体が面白くなるか

考えましょう。

ひとりで読むのが好きな方は
このすり合わせの作業が
億劫だという方もいますが、

自分ひとりでは絶対に気づかない、
あるいはやらない読み方に
気づかせてもらえる、

素晴らしい機会です。

自分のアイディアを出すことは
とても大切なことですが、
そこに固執し過ぎないようにして、
共同作業を楽しみましょう。

相手が読むところも一緒に読む

最初にもお話しましたが、
地の文を複数人で
読むパートを割り振って読むことを、
「分かち読み」と言います。

地の文が多い作品を読む時に
発表会などで
よく行われる読み方です。

この「分かち読み」を行う時に
顕著に現れますが、人と読む時に、
自分の読むところしか見ていない
という方がいます。

自分が読む部分だけを目で追い、
ひとつ終わったら
次の自分のパートを見て
読む準備をする
、という方です。

このような読み方だと、
人と一緒に共同作業をする、
という読み方ではなく、

とにかく
自分の担当個所だけを
責任を持って読む

ということになります。

分かち読みであっても、聴き手は
全員の読みすべてを聴いて、
初めて作品の内容が
理解できます。

ですから、文字通り
「息を合わせる」ことは
とても重要です。

自分の部分だけではなく、
人が読んでいる時も
同じ個所を一緒に心の中で
読みましょう。

そうすると、ひとりの人が
読んでいる息(流れ)のまま
読み進める
ことができます。

特に大切なのは
読み手が入れ替わる時です。

相手の文章を読みながら
自分の文章を読み始めると、
ひとりの人が読んでいる息
読み始めることができます。

しかし、自分のところだけ見ていて、
前の人の最後の言葉だけ聴いて
自分の部分を読み始めると、

読み始めるタイミングが
速くなったり遅くなったりして、

自然にひとりの人が読んでいる息で
読み進めることができなくなります。

これは本当にちょっとしたことなんですが
絶大な変化があるので、
今まで自分のところしか
読んでいなかった!という方は、

ぜひ、ひとつの作品を皆さんと一緒に
最初から最後まで読んでみてください。
作品理解も深まるので、
自分の読みにも影響が出るはずです。

相手のセリフで心を動かす

朗読劇などの場合、
相手とセリフのやり取り
することがあります。

そういう時に
自分のセリフだけを読むのではなく、
相手のセリフを
本当に聴いてみましょう。

それができると、
自分の心が動いて、
生きたセリフを言うことができます。

具体例を見ていきましょう。

老爺 「王様は、人を殺します。」
②メロス「なぜ殺すのだ。」
③老爺 「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
④メロス「たくさんの人を殺したのか。」
⑤老爺 「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣よつぎを。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」
⑥メロス「おどろいた。国王は乱心か。」
⑦老爺 「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
 聞いて、メロスは激怒した。
⑧メロス「あきれた王だ。生かして置けぬ。」

(太宰治「走れメロス」より)

この文章は、有名な「走れメロス」
冒頭に出てくる、
老爺(ろうや)とメロスの会話です。

シクラスという町にやってきた
メロスは、街の様子が以前と違って
寂しくなっていることに気づき、
老爺に声をかけました。

すると老爺は最初黙っていましたが、
尚も問いただすと①のセリフで
「王様は、人を殺します」
驚くべきことを言い出します。

この時老爺は、
「あたりをはばかる低い声」
やっと言うのです。

みんなが思っているけれど
口にできないことを言わされる、

というニュアンスです。

あまりに予想外の言葉に、
メロスは②の「なぜ殺すのだ」
セリフの前に、
まず「驚く」はずです。

この驚いた時のセリフは
ありません。

読み手が本当に驚いて息をのむだけで、
その驚きは聴き手に伝わります。

その次に疑問が出てくるので
「なぜ殺すのだ」のセリフが
出てくるわけです。

それに対して老爺は③のセリフで、
王が勝手に疑心暗鬼になっている
ということをメロスに伝えます。

老爺は、最初は本当のことを言うのは
怖いので恐る恐る言い始めましたが、
話しているうちに
だんだん力を込めて話すようになります。

それに対してメロスは
また驚きます。
この驚きを表すセリフも
書かれていません。

最初の驚きと同じように
また息をのみます。

王が、全く正当な理由なく
人を殺している
ことが
わかったからです。

その次にメロスは④のセリフ、
「たくさんの人を殺したのか。」
と聞きます。

もうこの辺りで、直情的なメロスは
怒りがどんどん湧いてきています。
言葉に力が溢れます。

そのメロスに対し、老爺は⑤のセリフで
素直に、王が王位を継承する
可能性のある親族を次々と殺している

という事実を伝えます。

そのニュースが街に飛び交った時の
悲しい、痛ましい気持ちを思い出して、
老爺は涙を浮かべているかもしれません。

この老爺の話を
メロスは驚きながら聞きます。
「何?…何っ?…何ぃ~っ⁉」
という感じです。

そしてその結果として
初めてメロスは
「おどろいた。」と、
驚きを口にします。

さらにあまりに信じられないので
「王は乱心か。」
王が正常な状態でいるのかを
確かめます。

これに対する老爺の⑦のセリフ、
王は人を信じることができず、
今日も6人が殺された…
という話で、

メロスの気持ちは、
今までの驚きから
一気に怒りへと変化
します。

そこで⑧の
あきれた王だ。生かして置けぬ。」
というセリフになるのです。

もう、怒り沸騰です!
なぜ「生かして置けぬ。」まで
飛躍するのかは、
この際置いておきましょう!

とにかくメロスは熱い男なのです!
正義の人なのです!
そんな王を黙って見逃すことなど
できないのです!

…というような流れを
この冒頭で作る
ことができると、
この後の話がとてもわかりやすく
聴き手に伝わります。

今、細かくセリフを見てきたように、
相手のセリフに影響されて
自分のセリフが出てくる、

という感覚をつかみましょう。

これが
「本当に相手のセリフを聞く」
ということです。

セリフは結果です。

セリフが言葉となって出てくるまでに、
人物の心の中では、
ご覧いただいたように
いろいろな思いが渦巻いてます。

その気持ちを、
セリフにはなくても、
相手の話を聞いて
自分の中に作り出すのです。

自分目線で言うとそうなりますが、
逆に言うと、
セリフは相手のために言うのです。

相手が本当に気持ちを動かして
セリフが言いやすくなる
よう、
自分のセリフを言うのです。

参加する全ての人が
このような気持ちでセリフを言えると、

その朗読劇はちゃんと
会話ができている作品となり、
人の心に届きます。

まとめ

今回は
「人と一緒に朗読する時に
気をつけたい3つのポイント」

についてお話ししました。

結局、人と一緒に読む時は、
相手の言葉をよく聴く、
ということが一番大切です。

ひとりで読むのも楽しいですが、
こうやってお互いに影響を与えつつ
ひとつの作品を作る
ことは、
本当に楽しいものです。

すでにそういう場がある方は、
ぜひ試してみてください。

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S-R Labo主宰
松井 みどり

元フジテレビアナウンサー。退社後はナレーターとして活動する一方、舞台活動もスタートし、芝居、朗読、朗読劇などの舞台に年に10本ほど参加。2014年より教える仕事も続けている。

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