こんにちは。
声と体で小説の世界を
生き生きと表現する舞台朗読研究所
S-R Labo 松井みどりです。
今回は舞台朗読で大切な
「気づく」という動きについて
お話します。
「気づく」という動きについて
舞台朗読では、お客さまに
物語を立体的に感じていただくため、
体の動きをつけています。
もちろん作品によっては
立って動いても良いと思いますが、
大抵はそこまで大きな動きではなく、
顔や体の向きを変えるだけです。
よく使われる動きのひとつに
「気づく」というものがあります。
物語の中には語り手が何かに気づく、
というシーンは多く出てくるので、
今日はこの「気づく」という動きを
詳しくご説明します。
具体例「蜘蛛の糸」
では具体的に「気づく」とは
どういう動きなのでしょう。
まずは例文をご覧ください。
①御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、
②この犍陀多には蜘蛛を助けた事があるのを
③御思い出しになりました。
④そうしてそれだけの善い事をした報には、
⑤出来るなら、この男を地獄から救い出して
⑥やろうと御考えになりました。
⑦幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした
⑧蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、
⑨美しい銀色の糸をかけて居ります。
「蜘蛛の糸」芥川龍之介より
話の流れがあるので長く引用しましたが、
「気づく」の動きがあるのは
⑥から⑦の間です。
お釈迦様が犍陀多を助けてやろうと
お考えになってから
ふと側を見ると極楽の蜘蛛がいた、
というシーンです。
この時、お釈迦様は①から③で犍陀多の
善い行いを思い出し、
④から⑥で助けてやろうと思いつきます。
次に、何か助けてやる方法はないものかと
ちょっと目線を動かしたら、
極楽の蜘蛛がいるのに気づきます。
この時の蜘蛛に「気づく」という動きを
実際に読みの中に入れてあげるのです。
このような動きを入れることで、
お釈迦様の体を形で再現し、
お客さまにイメージを高めて
楽しんでいただくことが目的です。
動き方
それでは実際の動き方を
ご説明します。
先ほどの「蜘蛛の糸」の例文を
ご覧ください。
舞台朗読では、大切な言葉や
特にお客さまに伝えたい部分で
顔を上げて、直接お客さまに
言葉を渡します。
その意味合いでは⑥の部分は、
顔を上げてお客さまに向けて
読みたいところです。
「御考えになりました」と
顔を上げたら、そのまま目線を
左右どちらかに移動させます。
そして何かに気づき、
一瞬息を飲みます。
これが「気づく」という動きです。
できれば顔をそこに残したまま
⑦の「幸い」と読み始めたら、
顔をテキストに戻します。
これが一連の「気づく」という
動きの流れです。
注意点
顔を動かし過ぎない
「気づく動き」と言われると
顔を横を向くまで動かすと
思われるかもしれません。
しかしこの動きは
小さくてもわかりますし、
小さい方が自然です。
実際には顔を動かすというより、
目線を斜め前にあげる、くらいで
十分伝わります。
大きく動き過ぎるとテンポが崩れ、
読みの中に動きを有効に
入れられませんので
ご注意ください。
最初から気づかない
まずやっていただくと、
最初から気づいた顔で
顔を動かす方がいます。
この動きを有効にするためには、
最初は「ただ見る」ことが
大切です。
その後に気づくから
「あ、今気づいた!」と
わかるのです。
ですからまず動かして、
その後に息を飲む動きをすると
「気づいた」瞬間を表現する
ことができるというわけです。
気づいた後も、気づいた気持ちを持ち続ける
気づくまでは良くても、
その後にまったくその感情を
引っ張らずに次の地の文を読むのは
とてももったいないです。
顔は上げても下げてもいいのですが、
気づいた時の気持ち…驚いた気持ちや
嬉しい気持ち、焦った気持ちなどを
感じたまま次の文章を読んでください。
「蜘蛛の糸」で気づくのはお釈迦様なので
あまり大きな感情の動きはありませんが、
それでも見つけて「良かった」と
少し微笑むくらいの気持ちで
⑦以降の文章を読んでいけると
動きと読みがきれいに連動します。
まとめ
今回は舞台朗読で大切な
「気づく」という動きについて
お話しました。
実際は目線がちょっと動くだけという
本当に小さな動きですが、
たったこれだけでも物語を
立体的に伝えることができます。
それだけ動きと読みは連動しています。
少し練習が必要ですが
適切な間も取りやすくなりますので、
ぜひお試しください。
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