こんにちは。
声と体で小説の世界を
生き生きと表現する舞台朗読研究所
S-R Labo 松井みどりです。
今回は
「舞台朗読における顔の上げ方」
についてお伝えします。
顔を上げる意味
朗読にはいろいろなやり方が
あります。
どんな方法でも、
作品の世界観をお客さまにお伝えし、
楽しんでいただけるのであれば
問題ありません。
アーティスティックな朗読では
まったく顔を上げずに読んでも
イメージが湧くように、
音響、照明、音楽、読み方などに
工夫を凝らしている舞台も
あります。
私が行っているのは
お客さまに小説を頭の中で
再構築して、
ご自分の物語として
楽しんでいただく、
エンターテインメント性の強い
舞台朗読です。
音楽や照明にあまり凝らず、
身ひとつで小説の世界を
体現するのは、
なかなか難しいことです。
でも読み方以外にひとつ、
誰でもできる重要な動きが
あります。
それが
「顔を上げる」という動きです。
顔を上げることで
読み手と本という二者の関係を、
聴き手も含めた三者の関係に
広げることができます。
すると聴き手に直接
言葉が伝わるので、
物語の世界に
入っていきやすいのです。
この動きは
とても単純ですが奥が深く、
なかなかひと言でお伝えするのは
難しいのですが、
今回は初心者の方向けに
大切なポイントに絞って
なるべく詳しくお伝えします。
顔を上げる3つのタイミング
まず具体的に
顔を上げる3つのタイミング
についてお話しします。
これに限るわけではないのですが、
初心者の方はまず
このタイミングを押さえてください。
文章の最後
今はプロンプターがあるので
アナウンサーはカメラを見たまま
ニュースを読みますが、
少し前は
原稿に目を落として読み、
画面が映像に切り替わる前に
顔を上げて読んでいました。
文末で顔を上げると
いうことですね。
今月6日から、
東京渋谷区にあるギャラリーで
本を使ったアート展が開かれています。
この文章を次のように読み、
動画で収録して
確認してみましょう。
①1行めだけ
顔を上げて読み始め、
2行目から下を向いて読む
②下を向いて読み始め、
「アート展が開かれました」だけ
顔を上げて読む
いかがでしょう?
②の方が、圧倒的に
自分に伝えようとしている、
と感じませんでしたか?
このように文末で顔を上げると、
その文章全体を
聴き手に伝えたように
受け取ってもらえます。
ですから文末で顔を上げるのは
とても有効です。
大事な言葉
これも例文で説明します。
聡子は広い通りを
駅の方へ歩いていった。
このような文章がある場合、
前後の文脈から
どの言葉が大切なのかを
まず判断します。
その前に
「隆は~をした。佳子は~をした」
など、複数の人の行動を
伝えているのであれば、
この文章では「聡子は」が
重要になるので、
そこで顔を上げます。
また駅へ行く道を
いろいろ説明した後なら、
その中の「広い通りを」
歩いていくので、
「広い通りを」を読みながら
顔を上げます。
さらに、広い通りを行くと
駅にもデパートにも学校にも
行ける、という文章の後なら、
その中の「駅の方へ」行ったので、
そこで顔を上げます。
そして聡子に緊急事態が起き、
焦っている状況なら、
そういう状況だけれども
「走っていった」わけではなく
「歩いていった」のですから、
そこで顔を上げます。
このように同じ文章でも、
文脈によって強調する言葉は
変わります。
その強調する言葉を
聴き手に印象付けるために
顔を上げるのです。
音が高くなるところ
これは前述の
「大事な言葉」と同じ意味です。
読んでいて
音が高くなるところは、
顔を上げると
声と体がリンクします。
音が高くなるところは
大事な言葉である可能性が高いので、
そこで顔を上げることで
聴き手に強調することができるのです。
注意するポイント
同じタイミングでずっと顔を上げ続けない
3つの顔を上げるタイミングを
お伝えしましたが、
このタイミングで必ず顔を上げるか
というとそうではない、
ということが
顔の上げ方をお伝えする上で
難しいところです。
例えば文末で顔を上げると良い、
ということで
毎回毎回文末ごとに顔を上げると
機械的な感じになってしまい、
うまく聴き手に
言葉を届けられません。
文章を十分理解した上で、
ここでは上げた方が良い、
ここは上げない方が良い、
ということを判断します。
慣れてくれば、体が勝手に
同じタイミングにならないよう
反応するものなのですが、
最初のうちは
振り付けのように
覚えてしまう方が簡単です。
そうやって何度も
練習していると、
いつか必ず、顔を上げた時に
声と体がリンクする瞬間を
経験することができます。
そこまではまず
形だけでもいいので
チャレンジしてみましょう。
せわしく動かない
顔を何とか上げようと思うと、
原稿を見たり顔を上げたりが
必要以上に頻繁になり、
見ていて
「せわしないなぁ」と
思ってしまうことがあります。
朗読は頭の中で
イメージしてもらうものですから、
声と体がリンクしていないと
そこばかり気になって、
なかなかイメージすることが
できません。
思い切って顔を上げずに読み続け、
聴き手に存分に
イメージしてもらう部分も
必要ですので、
顔を上げるところと読むところを
バランスよく作ることが
大切です。
具体的な顔の上げ方
文頭の顔の上げ方
通常の舞台朗読では、
一番最初の読み始めに
顔を上げることが多くあります。
その場合は
読み始める前に
台本に目を落としておいて、
最初の方だけ瞬間的に記憶し、
顔を上げて覚えた言葉を
口にします。
そんなに長く
上げておく必要はありません。
今月6日から、
東京渋谷区にあるギャラリーで
本を使ったアート展が開かれています。
最初に例にあげた
こちらのニュース原稿なら、
「今月6日から」の部分だけ
瞬間的に覚えます。
このくらいなら、
少し練習すればすぐに
覚えられるようになります。
しかも読み始める前に
一回下を向いて確認してから
顔を上げれば良いので、
誰でも簡単にできます。
文末の顔の上げ方
文末で顔を上げる時は、
そこまでを読みながら、
文末を覚えられるところまで来たら
顔を上げます。
今月6日から、
東京渋谷区にあるギャラリーで
本を使ったアート展が開かれています。
またこの文章で説明します。
この時は最後の1行の
「本を使った」を読みながら
「アート展が開かれました」を
瞬間的に覚えます。
そして顔を上げて
「アート展が開かれました」
と口にするのです。
具体的には、読みながらできる範囲で
先に目線を動かしていくのです。
厳密に言うと、口に出している言葉と
目で追っている言葉は同じではなく、
目で追っている言葉の方が
先を行っているということです。
文字で書くと難しいですが、
実際やってみると
そんなに難しいことではありません。
タイミングをつかむまでは
「本を使ったアート展が」まで読んで、
「開かれました」で顔を上げても
OKです。
これだったら
そんなに何度も練習しなくても、
自信を持って
顔を上げられますね。
大事な言葉での顔の上げ方
文章を読んでいて、
途中で大事な言葉が出てきた時に
顔を上げる時は、
ブレスも意識します。
聡子は広い通りを
駅の方へ歩いて行った。
今度はこちらの例文で
説明します。
文頭の「聡子は」と
文末の「歩いていった」の
顔の上げ方は、
前述のとおりです。
「広い通りを」で
顔を上げたい時は、
「聡子は」と読みながら
「広い通りを」を覚えます。
次に息を吸いながら
顔を上げます。
そして「広い通りを」と
口にします。
その後は顔を下げて
2行目を読みます。
「駅の方へ」で
顔を上げたい時は、
「広い通りを」と読みながら
「駅の方へ」に目を向け覚えます。
次に息を吸いながら
顔を上げます。
そして「駅の方へ」と
口にするのです。
その後は顔を下げて
文末を読みます。
実は、文頭、文末で
顔を上げる時も、
息を吸いながら行います。
基本的に顔を上げる時は、
息を吸いながら上げると
思ってください。
文頭と文末では
自然にできることが多いのですが、
文章の途中の場合は
少し意識することが必要です。
こういう場合は
強調の程度が強い場合が多いので、
顔を上げ、なおかつ
少しゆっくり言ってみましょう。
何度か繰り返して練習すると、
自然な言葉と体のリンクを
感じられます。
まとめ
今回は
「舞台朗読における顔の上げ方」
についてお伝えしました。
「顔を上げる」という動きには
とても大きなパワーがあります。
たとえ振り付けのように動くだけでも、
下を向いて読み続けていた時とは
格段の違いがあります。
ぜひ録画して確認してください。
最初はいろいろ考えることが
たくさんあって
大変だと思いますが、
顔を上げる動きに慣れれば、
頭でいろいろ考えなくても
自然に動けるようになります。
そうなるまで
何度も繰り返し練習して、
伝える力を
パワーアップしてください。
コメント
[…] […]